なにか簡単な質問を相手へ投げかけ、「はい(イエス)」と言わせる。これを何度か繰り返していくことで、相手は、「はい(イエス)」 と言いやすい気持ちが相手に生じ、そこで本命の頼み事を相手に伝えれば、「はい(イエス)」と受け容れられる ――。
これが、一般的に『イエス誘導法』と呼ばれている心理テクニックです。
しかし、本当にこのような心理的効果があるのでしょうか?
相手に「はい(イエス)」と連続で言わせさえすれば、どんな頼みやお願いでも聞き入れてくれる ・・・ それが真実なら、ビジネスや恋愛において、こんなに楽なことはありません。
例えば、
Aさん:「今日はいい天気ですね」
Bさん:「そうですね」
Aさん:「だけど急にぐっと冷え込みましたね」
Bさん:「ええ」
この様なつまらない会話を続けるだけで、仕事では契約が取れ、恋愛に至っては恋人ができるのか?
答えは、「いいえ(NO)」でしょう。
イエス誘導法を効果的に用いるには、その理屈をきちんと知る必要があります。
そこで今回は、
- イエス誘導法の仕組みはどういうものなのか?
- 相手から「はい」を引き出すにはどのように用いればいいのか?
ということを中心に解説していきます。
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イエス誘導法と一貫性の原理
1-1. 人間は一貫性を求めるのでイエス誘導法の効果が出る
イエス誘導法というのは、一貫性の原理と関わりがあります。
一貫性の原理とは、人が持つ心理的性質の一つであり、『言動や態度、思考やスタンスといったものが一貫した状態でありたい』 というものです。
いわゆる「ダブルスタンダード」が嫌われる理由も、一貫性の原理に背く態度だからです。
たとえば、学校の授業や会社での会議の時に居眠りをしている人がいるとしましょう。教師や上司がそれを見て、Aさんには厳しく叱責をし、Bさんには寛容な様子を示しました。
この場合、同じ居眠りという行為をしているAさんにもBさんにも、同じような処分が下されるべきです。あるいは、許されるなら両者ともに許されるべきです。
片方だけが叱られ、片方は見逃されるというのは、対応として矛盾しています。
自分が叱られた側だったら、と考えてみるといかがでしょうか? 同じように居眠りをしていた他者が同じように叱られるならまだ仕方ないと思えても、自分だけが叱られるのは納得行かないのではないでしょうか?
これが、いわゆるダブルスタンダードであり、心理的に問題とみなされるものです。
人間は一貫性を求めるものだからこそ、そこから外れることに不快感を覚えるものだということですね。
1-2. イエス誘導法での「はい」も一貫させたい
イエス誘導法は、「はい」という返答を連続させ、積み重ねていくことで、自分に対する相手の肯定的な態度を構築していくテクニックです。
ここで働いているのは、『肯定的な態度を一貫させたい』 という心理的作用だと言えます。
そのため、イエス誘導法は一貫性の原理と関わるといえるのです。
このような理屈からすると、実は大して意味のないような世間話程度のやり取りでも、相手に「はい」と繰り返し答えさせるような質問を重ねるのは、無意味とまでは言えないと考えられます。
なぜなら、相手に「はい」と肯定させることで、ある程度、警戒心を緩めることができるからです。
日々挨拶を交わすだけの関係性でも、全く話したことのない相手よりは親近感をいだくという経験をしたことがありませんでしょうか?
コミュニケーションを円滑にする手法としてならば、「はい」で答えられるような会話を投げ掛けるようなイエス誘導法を活用するのも悪くない心理テクニックになります。
1-3. イエス誘導法を活用する会話方法
コミュニケーションとしての会話が目的なのであれば、一貫性の原理によって警戒心を緩めたり、多少の親近感をいだいてもらったり、ということが可能です。
そのためには、以下の点に気をつけて話を振るとよいでしょう。
① 相手が肯定しやすい話題を選択する
「いやー、雪も降ってすっかり寒くなりましたね」
「日本チームが勝ちましたね」
などのように、相手が「はい」と言いやすいような話題を選ぶことが大事です。
当たり前のことであったり、相手との共通理解がなされていることであったり、そういった同意を得られやすい話題は、相手も安心してキャッチできます。
反対に、
「こう冷えると、寒中水泳をしたくなりますね」
「コモロチームが決勝へ進む快挙ですね」
というような、あまり同意を得られなそうな話題は避けておいたほうがいいでしょう。
② 自分の発言だけで終わってしまう会話にしない
「今日はとても寒いです」
「日本選手が金メダルを獲得して嬉しい気持ちになりました」
といったように、言い切りで話題を提供しようとしても、相手からすると「はぁ、そうですか」で終わってしまいます。
「寒いですね」「嬉しくなっちゃいましたよね」など、相手も言葉を返しやすいように話し方を工夫するといいですね。
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イエス誘導法の一歩進んだ活用法
2-1. 世間話から一歩先の会話を作りましょう
あくまでもコミュニケーションとして世間話や雑談をするだけなら、イエス誘導法を活用して、とりあえず「はい」と答えられそうな話題を振るだけでも問題ありません。
しかし、ビジネスや恋愛の場面で相手からの「はい(Yes)」を引き出したい時には、それのみでは足りないでしょう。
では、単なる世間話や雑談から先へ進んで、何かしらの実利のある話をしようとする場合、イエス誘導をどのように活用すればいいのでしょうか。
その方法を知るには、そもそも相手に「はい」と言わせることの意味を理解しておく必要があるのです。
2-2. 「はい(YES)」という肯定の意味
イエス誘導法における「はい(Yes)」には、2つの意味があります。
同意の意味
同意というのは、相手の言うことに対し
- 「その通り」
- 「同じ意見です」
というスタンスを示すものです。
A:「このワンちゃん、すごく可愛いですよね」
B:「は、はい……(それネコなんだけど・・・)」
あり得ない会話の例でしたが、、、こんなやり取りがあったとして、この「はい」は同意ではないことがわかります。相手に話を合わせただけの、相槌としての「はい」なので、あまり意味はありません。
むしろ、これで相手との距離が縮まったと考えるのは逆効果ですらありますので気をつける必要があります。
共感の意味
共感というのは、同意とはまた異なり、「私も同じように感じます」という情感を示すものです。
同意と共感の違いを例で示すと、以下のようになります。
A
:「新製品のパッケージは若者向けの斬新なデザインにしたほうがいいですよね」
B(同意の『時)
:「はい。リサーチやアンケートの結果からも、そのほうが売れると考えられます」
B(共感の時)
:「はい。私も斬新なデザインのほうが素敵だし欲しくなるなと思っていたのです」
同意の場合、「パッケージを斬新なデザインにすること」が売れ行きの向上にとって効果的だろうという意味で、「はい」と述べています。
ここで、別に斬新なデザインが好みかどうかは問題とされていません。同意した側が、斬新なデザインは好きではない、と思っている可能性もあります。
共感の場合、「パッケージを斬新なデザインにしたい」という主張者の思いに対して、「はい」と述べています。売れ行きが伸びるかどうかは別に、共感した側が、斬新なぜザインのほうが好みだ、と思っているわけです。
「同じように考える」のが同意であり、「同じように感じる」のが共感だと理解するといいでしょう。
2-3. イエス誘導法では同意だけではなく共感を得たい!
“同じ意見である”というのは確かに親近感を生み出しますが、それだけではまだまだ弱いものです。
例えば、意見の正当性とは別に、その意見の持ち主への好き嫌いが問題とされるケースは多くありますよね。素晴らしい提案があったとしても、その提案者が大嫌いな相手だったとすると、提案ごと却下したくなるという人も少なくありません。
つまり、人はロジックや意見の内容だけでは動いてはいないということです。
「私も同じように感じますよ」 という共感を重視することで、相手との仲を一層深めることができます。
イエス誘導法での「はい」は、考えの一致だけではなく、感じ方の一致をアピールする手段でもあるということが言えますので、同意と共感の両方を上手に使っていく事が重要です。
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イエス誘導法をビジネスや恋愛で活用するには?
イエス誘導法とは、ただ相手に 「はい」 と言わせるのではなく、会話によって相手の同意と共感を探っていくことにより、結果として 「はい」 と言ってもらう方法です。
相手との良好な関係を築くというのは、仕事においても恋愛においても初歩的なステップであり、スタート地点でもあります。
では、どのように相手の同意と共感を探れば良いのでしょうか?
3-1. 仕事(営業)におけるイエス誘導法の活用事例
売り込みなどのビジネス環境でイエス誘導法を効果的に使うには、
- データなどで裏付けの取れる事柄
- 好みの問題
この2つをしっかりと分ける事が大事です。
前者①は同意、後者②は共感が成立するように会話を考えます。どちらかだけに偏らないようにしなければなりません。
営業パターン①
:「健康は大事ですよね?この商品はカロリーや塩分を30%カットしているから、とってもヘルシーなんです!」
これは、同意を狙った売り込み方です。
一方、
営業パターン②
:「○○がお好きなんですか!あれはコクがあって美味しいですよねー。それなら、この商品もきっと気に入って頂けると思いますよ!」
これは共感を狙った売り込み方であり、どちらのパターンも間違いという事はありません。
ただ大切なのは、会話の際に相手が“同意を重んじるタイプなのか?”、それとも“共感を重んじるタイプなのか?”をしっかり探りながら会話を展開する事であり、それに応じてイエス誘導法の方向性を使い分ける事なのです。
3-2. 恋愛におけるイエス誘導法の活用事例
恋愛でイエス誘導法を活用する場合は、理屈よりも感情が重要となります。そのため、同意よりも共感を優先させたほうが上手くいくことが多いでしょう。
考え方自体は異なっていても構いません。意見を互いに言い合うことで、別の意見が生まれてくることもありますし、それは関係性のマンネリを防ぐことにも繋がります。
しかし、感じ方が異なってしまうのは問題です。
よく、味の好みが違っている相手と結婚するのは大変だ、などと言いますが、”考え方”とは異なって、”感じ方”は修正が利くものではありません。つまり、同じものを同じように感じる男女のほうが、共に過ごしやすいのですね。
男:「3日間くらいお風呂に入らなくても平気だよね?」
女:「は?ふつう毎日入るでしょ!」
というような二人では、良好な関係を続けるのは困難です。
「あまり汚れていないから入浴しなくてもいい」 という人と、「毎日入浴するのが当然だ」 という人が議論をしたところで、感じ方の問題は一致させられないのです。
恋愛でイエス誘導法を用いる場合は、「私も貴方と同じように感じますよ」 という点を会話でアピールする事が効果的でしょう。とにかく共感が得られる会話の展開が重要です。
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イエス誘導法のまとめ
会話というのは、相手から何かを引き出すことでもあります。
相手の「はい」を誘導するということは、結局のところ、相手が何に対して「はい」と答えるのかを探っていくことでもあるのです。
そのためには相手を知ることが大事です。知らない相手は、ある問いに対して何と答えるかがわからないからです。
イエス誘導法を活用していくことで、相手のことがどんどん見えてきます。そうなれば、きっと貴方の思うように会話を形作ることができるようになることでしょう。
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