心理学にもさまざまな種類がありますが、中でも学習心理学は難しい分野と思われがちです。
しかし私たちの身の回りには学習することで溢れており、学習心理学は実はとても身近な学問であると言えます。
ここでは、
- 学習心理学とはどのようなものなのか?
- そこからどんなことが分かるのか?
を詳しくご紹介していきます。
1.学習心理学とは
一般的に学習と聞けば学校で行う勉強をイメージする人が多いかと思いますが、心理学での学習はとても広い意味を持ちます。
心理学における学習とは 人間を含む動物がさまざまな経験を通じて行動を変容させていく過程である と定義されていて、学習心理学ではすべての生物のさまざまな学習タイプや学習行動を研究していきます。
つまり私たちがどうしてその行動を起こすのか? その基本的な原理を追及し研究していくのが学習心理学です。
数ある心理学の分野の中でも学習心理学は難しい、とっつきくいと思われがちですが、私たちの生活に深く関わりのある興味深いものであります。
2.そもそも『学習』とは?
学習心理学では、一般的な学校などでの勉強を指す『学習』よりももっと広い意味で使われています。
経験によって生じる比較的永続的な行動の変化 と定義されるのですが、この心理学での学習とは私たち毎日に溢れている何気ないことばかりです。
何か特殊なことを研究対象とした心理学ではなくて、
- 毎日の生活の中で私たち人間や動物が自然に行っている行動やその変化
- さらにそのメカニズムを解明しようとする
これが 学習心理学 です。
どういった経験がどのように行動に変化を与えるのか、また行動の変化があったときの原因は何なのかを研究していきます。それによってより 良い行動の変化を期待するには、どのような経験が必要になってくるのか が明らかになるでしょう。
学習心理学は普段私たち人間や動物が無意識のうちに行っている行動の意味や原因を明らかにしてくれる、とても興味深い心理学なのです。
3.学習研究の方法
学習心理学の 学習研究の方法 には大きく2つあります。
- 観察法
- 実験法
の2つです。
3-1. 観察法
観察法とは、自然環境での人間や動物の行動を観察することあり、自然な状態でどのように行動するのか を明らかにします。
観察対象への行動をコントロールせず、特定の経験によってどのように行動が変化していくのかを観察するので観察される側の負担は少ないでしょう。
しかし行動の変化が本当に特定の経験によるものなのかが確認しにくいというデメリットがあり、そのため因果関係をはっきりと特定するのが難しくなります。
3-2. 実験法
実験法とは観察対象に対して経験させる内容を変化させることによって、どのように行動が変化するのかを観察します。
経験させる内容のことを 独立変数 と呼び、それに伴う行動の変化のことを 従属変数 と呼んでいます。
心理学研究では、実験環境で研究者が操作的に定義できる『実験条件(刺激・課題設定・動因)』のことを独立変数と呼び、実験によって測定される『実験結果・観察と測定の結果』のことを従属変数と呼んでいる。心理学実験では『実験群』と『対照群(統制群)』の二つのグループを準備して比較実験を行うことで、独立変数(各種の条件刺激)が実験対象に及ぼす影響や効果を測定しようとする。
言い換えると、独立変数を変化させることでどのように従属変数が変化するかを観察するのが実験法です。
ここで大切なポイントがあり、 独立変数以外の条件は変化させないことと、さらに複数の観察対象に行って行動の変化が一般的なものであるかどうかを確かめる 必要があります。
4.行動的アプローチと認知的アプローチについて
学習心理学のアプローチ方法には、行動的アプローチ と 認知的アプローチ があります。
4-1. 行動的アプローチ
行動的アプローチでは、『3. 学習研究の方法』で説明した実験法のように、与えられた刺激に対してどのような行動の変化が現れるのかを観察する方法です。
行動が変化する原因を、思考や感情には求めない という特徴があります。
このアプローチでは観察対象が動物でも可能であることや、客観的なデータが得られるのがメリットです。
どうしても人間の場合では、自分が観察対象であると知ると行動の変化に違いが現れる可能性があるので、これまでにも学習の研究では人間以外の動物での実験が多く行われてきました。
また人間は年齢を重ねることで一人ひとりの経験値が大きく違ってくるので、一人ひとりの行動の差が大きくなるという問題も出てきますが動物であればそのような問題もありません。
行動的アプローチでは思考や感情の内的なものの操作や観察はせず、どのような行動をどのくらいの頻度で行ったかという科学的に成立させるための客観的なデータのみが得られることが大きなメリットになります。
4-2. 認知的アプローチ
認知的アプローチは、行動的アプローチと同様の過程を行う上で内的な変化を観察していきます。
5.古典的条件づけとは
学習心理学の研究で有名なのがパプロフの発見で、現在ではこの発見は 古典的条件づけ や レスポンデント条件づけ と呼ばれています。
ノーベル生理学・医学賞を受賞した生理学者のイワン・パプロフが、食事中の犬が分泌する唾液量を調べようとしたことからこれまで知られていなかった条件づけが発見されます。
食事が犬に与えられ、そして実際に食べた時の唾液量を調べるというテストを何度も行うのですが、ここで食事が与えられるよりも前に唾液が分泌されることが分かりました。
つまり食事が与えられるよりも前に、何かしらの刺激が常に与えられことが原因となり唾液を分泌させていたということになります。
このパプロフの発見や実験は、 パプロフの犬 とも呼ばれ世界的にとても有名ですね。
その後もパプロフはこの研究を精力的に続け、古典的条件づけの基礎を作り上げます。
5-1. 古典的条件づけの手法について
古典的条件づけのシンプルな方法では、パプロフの犬のように毎回、餌を与える前に条件刺激と呼ばれるメトロームなどの楽器の音を聞かせるとします。
通常、犬は餌を与えられると唾液を分泌しますから餌は無条件刺激と呼ばれ、唾液を分泌することは無条件反応と呼ばれます。無条件反応とはその反応が学習により得られたものではなく、生まれつき備わっている性質によるものです。
古典的条件づけを行う際には、生まれつきの性質によって行われる反応と同時に何かしらの刺激がセットになる必要があります。また 条件刺激となるものは、学習する前には無条件反応を誘発しないものである ことも大切なポイントになります。
学習する前の犬にとってメトロームの音は唾液を分泌させる刺激にはなりませんが、学習をしていくことでメトロームの音を聞くだけで唾液を分泌するようになるのです。
つまり餌を与える前にいつもメトロームの音を聞かせていると、初めの頃にはメトロームの音だけでは唾液は分泌されませんが、これを繰り返し行っていくと音だけで唾液を分泌させるようになります。
この時、犬が唾液を分泌させる反応のことを条件反応と言います。
5-2. 古典的条件づけの基本
古典的条件付けでは、条件刺激と無条件刺激を繰り返し行うことで、少しずつ条件反応が起こる割合が増えていきます。
このようにして条件刺激を繰り返し行うことを条件刺激が強化される、条件刺激の強度が増すと呼ばれ、条件づけの実験ではこの条件刺激の強度が増す期間のことを 獲得期 と呼んでいます。
ここで大切なポイントは、獲得期に無条件刺激をやめて条件刺激のみを繰り返し与えても条件反応が強化されることはない ということです。
また、条件刺激と無条件刺激を繰り返し与える実験を続け、これが強化されていくとそれ以上条件反応の増加が見られないレベルに達することが分かっています。
また条件刺激や無条件刺激が強いほど、より早く条件づけが行われることも分かっています。
そして一度古典的条件づけによって身についた条件反応は、時間の経過だけで自然に消失していくことはありません。
条件反応を消去していくための手続きが必要になりますが、これは単に条件刺激と無条件刺激をセットで与えることをやめることです。
つまり、条件刺激だけを繰り返し与えることによって条件反応も消失していきます。
6.社会的学習について
人間の場合では、模倣行動つまり人の真似をすることでさまざまなことを学んでいます。
例えば子供であれば親、大人であれば尊敬する人物の行動を真似ることが良くありますが、反対に尊敬しない人物の行動は真似をしないという傾向があります。
子供の場合はアニメのヒーローやヒロインの真似をすることも良くありますが、これはそれをすることで友達や家族と楽しい時間を過ごせることが強化子となっていると考えられています。
6-1. 模倣に影響を与えるもの
良くも悪くも子供というのは両親の真似をしますが、これは両親が子供にとって大きな影響力があるからだと考えられています。
つまり、何かしらの優位性を持つ対象が模倣の対象になりやすい のではないかとの考えから、ある実験が行われています。
幼稚園児に新しい先生となる女性を紹介し、同時に今後も毎日会うことになると強調して説明しますが、別の園児には同じ女性を紹介するものの再び会うことはないと強調して紹介します。
その後に子供たちとその女性は一緒に遊び、女性がいなくなった後の子供たちの行動を観察していきます。
すると新しい先生になると紹介された方の子供たちは、そうでない子供と比較してその女性の行動を多く真似していることが分かりました。
これは先生だけでなく子供たちの中でも他の子よりも目立つ影響力の強い子供は、他の子供たちの模倣の対象になりやすいことが分かっています。
つまり 人間の間では、社会的グループの中で何かしらの優位性を持っている人が模倣されやすい というわけです。
また、類似性も模倣の生じやすさに影響を与える と考えられています。
例えば子供であれば年齢が同じであることや同姓であること同じことに関心を示すなど、何かしらの類似性がある子供に対して模倣しやすいことが分かっています。
6-2. 環境が子供に与える影響について
子供というのは特に、環境から大きな影響を受けて育ちます。
子供のパーソナリティーの発達に、観察学習つまり環境がどのように影響を与えるのかという研究はこれまでにもたくさん行われています。
①人格(パーソナリティー)への影響
例えば両親が子供に対して高い期待を持っていると、その子供はそれを達成したいという動機を強く持つのです。両親たちは子供がうまくできた場合にはより多く褒め、反対に失敗したり、うまくできなかった場合には失意を示すということを繰り返します。
両親からのより多くの期待とそして称賛という強化と失意という罰によって子供が発揮するパフォーマンスの基準が高くなる ことが分かっています。
②攻撃性への影響
子供の攻撃性も、環境から大きく影響されています。
特に男の子は思うように物事ができないと物を投げたり、叩いたりと攻撃的な行動をすることがあるでしょう。
このようなある攻撃行動を親から厳しく叱られた子供ほど、さらに強い攻撃行動を示すことが多くの研究から分かっています。
またしつけの厳しい両親ほど、子供が非行に走りやすいことも分かっています。
攻撃行動を厳しく叱られた子供は両親がいるところでは繰り返さないものの、両親がいないところで攻撃的になるのです。
これは 両親がモデルとなり、無意識のうちに子供は両親と同じやり方で人間関係を形成しようとしているのではないかと指摘 されています。
③恐怖心も影響する
また、恐怖についても家族からの影響を大きく受けることが分かっています。
多くの研究結果から、同じ家族内では同じものに対する恐怖心を持っているそうです。
これは 親が何かしらに恐怖を感じている様子を見ていた子供がこれを学習し、同じ対象に対して恐怖心を感じるようになるのではないか と考えられています。
7.まとめ
難しい、とっつきくいと思われがちな学習心理学ですが、このように学習心理学が扱う現象はとても身近なものばかりです。
経験によって行動が変わるということを教えてくれる学習心理学を学ぶことで、未来を変えていくこともできるでしょう。