心理カウンセリングでは、相談者の言葉や表現が全ての資源です。相談者が言いたいことを話し、じっくり聴くことが心理カウンセラーの仕事です。このように言うと、カウンセリングの仕事がとても簡単なように思われてしまいますが、これはこれでカウンセリングならではの難しさがあります。
- 相手の立場に立つ難しさ
- つい自分の聞きたいことを聴いてしまう・・・
など、心理カウンセラーが陥りやすい間違いが沢山あります。心理カウンセリングで、相手の言いたいことを聴けるようになるためには、いったい何が求められるのでしょうか?
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相手の言いたいことを聴くためには 『相手の立場に立つ』 こと
「相手が言いたいことを聴く」ためには、相手と言葉を共有しないといけません。
「日本語が話せるんだから、言葉が通じるのは当たり前でしょ!」と思うかもしれませんが、確かに、同じ日本人同士であれば会話をするのに問題はありません。
例えば、仕事や友人との日常会話では、相手の環境や性格・価値観などを大よそ知っていて、こういった土台を共有していますし、若い人の省略言葉や専門用語などは世代を超えては通じない場合がありますが、日常会話では問題ないでしょう。
しかし、心理カウンセリングの場合では『心の問題』なので、相手が使う言葉やどのように使っているかは極めて重要です。
1-1. 相手の立場と離れると、言葉が空回りする
心理カウンセリングでは、ほとんどの相談者とカウンセラーは初対面です。年齢やおよその経歴などは聞くとしても、はじめは相手の背景がほとんど判らない状態です。
例えば、「雪が降ってきましたね」 という何気ない挨拶でも、沖縄に生まれ育った人と北海道で生まれ育った人では、雪に対する感覚やイメージは全く違います。言葉や物事のひとつひとつに、個人の膨大な経験と記憶と環境が結びついています。
同じ「雪」という言葉を使っていても、雪に対して思っていることはお互いに違っていたりするわけです。
そういう所に気付かないと、相手が本当は何を言いたいのかが判らないと思いませんか?心理カウンセリングでは、ほとんど白紙の状態から話を聴いていきます。心理カウンセラーは、相手の言葉や悩みを生み出している背景を理解することが重要になります。そのためにひたすら傾聴して観察したり、確認したりするわけです。
それは相手の立場に立つ(近付く)作業といえます。
相手の立場とかけ離れていると、どんなに話しても、話を聴いても、言葉は空回りしてお互いの気持ちの疎通ができません。日常生活では暗黙の了解で済むことですが、心理カウンセリングでは相手の立場に立つことから始まります。
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自分が聞きたいことを聴くがカウンセリングではない!
私達は本能的に、“どうしても自分が聴きたいこと”に関心が行ってしまいます。心理カウンセリングでは、最終的には相談者の苦しい状態を改善するという目的があります。相談者が言いたいことを聴こうと心掛けていても、つい心理カウンセラーが聞きたいことを聴いてしまうということもあります。
2-1. 悩みの原因究明をする主役は“相談者自身”
心理カウンセラーは、相談者の話や表現の中から、変容のためのヒントを探ったり、時に質問したりして ”気付き” を促します。
当然、カウンセラーは相談者の悩みの原因を知りたいと思いますし、もっと問題についての詳しい情報が欲しいと思うことも多くあります。なので、つい原因の究明や相談者自身の変化を急いでしまうことがあります。
そうすると、相談者が話したいと思うことと、カウンセラーが聴きたいと思うことが食い違ってしまうことがあります。つまり、相談者との歩調が合わず、カウンセラーが先に行ってしまう状況ですね。
相談者の中で話したいという気持ちが熟していない時に、心理カウンセラーから質問をしても良い方向には進みません。
しかし、相談者が自ら原因に気付けば、話したくなります。主役はあくまでも、相談者自身なのです。そうなるまで相談者の心に寄り添いながら、出てくる言葉や感情をしっかりと受け止めることが大切です。
2-2. 自分の解釈に当てはめない
もうひとつは、心理カウンセラーが自分の解釈に当てはめた聴き方をしてしまうことがあります。相談者の話を聴きながら、心理カウンセラーの中にもさまざまな気持ちが沸いてきます。
カウンセラー自身の中にも先入観や思い込みがあります。相談者の話を自分の解釈の構図に当てはめてしまうこともあります。カウンセラーは、さまざまな可能性を保持しながら、自分自身を常にニュートラルな白紙の状態に保ちながら聴くことが求められます。これが、なかなか難しいことです。
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相手が言いたいことを聴くためには
「聞きたいことを聴くのではなく、相手の言いたいことを聴く」というのは、相手の立場に立って、相談者の心に寄り添いながら聴くということになります。そのためには、どのようなことに気をつけると良いのでしょう?
まず相談者が言いたいことを率直に言えるような信頼関係を築くことが大切です。そのための傾聴の技法はいろいろとあり技法を身につけることも大切ですが、技法以前に下記のような基本的姿勢が重要です。・相手の変容を促そうとせずに、まず相手の立場に近付き理解しようとすることが何より大切です。
- 相手を尊重し、対等の立場で話を聴くことが大切です。私達が病院で受診する時、やはり医者と患者という関係は、お医者さんが上でこちらは下というように感じてしまいますね。それと同じようなことが、カウンセラーとクライアントとの間にも起こりがちです。
- あくまで相談者が発した言葉や表現をもとに、相手の気持ちがどこにあるのかを探りながら対応していくのが大切です。解決へのヒントは、相談者の言葉の中にあるのです。
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まとめ
心理カウンセラーは、自分が聞きたいことより相手が言いたいことを聴くのが大切です。そのためには、相手の立場に立つ(近付く)ことが、相談者の理解につながります。カウンセリングはあくまで相談者が主役であり、心理カウンセラーは対等な立場で相手を理解しようと努め寄り添うことが求められます。