共感的理解と客観的理解 – 共感とは?理解とは?(カウンセリング技法)

心理学は、人の心を扱うので興味を持つ方が多いかもしれません。心理カウンセリングではさまざまな相談者について、各々の立場に立って理解しようとします。

その際に、『共感的理解』というやり方を用います。共感的理解とは、「共感」そのものとは違います。共感は同じ体験が必要ですが、心理カウンセラーは相談者と同じ体験はできません。それでは一体、共感的理解とは何でしょうか?

共感的理解と客観的理解とは?そもそも ”理解” や ”共感” とは何かについて解説していきますのでカウンセリングスキルを高めていきましょう。

 

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人の心を理解することができるのか?

「今の説明では、なぜこれほどの費用がかかるのか理解できない」 など、「理解」という言葉はよく使うのではないでしょうか。

国語辞書的に言うと、『物事の道理や筋道が正しくわかること。意味・内容を飲み込むこと』 ということになります。「物事を理解する」という場合は、論理的・合理的な思考による場合がほとんどですね。費用がかかっても、その根拠が合理的ならば 「それなら仕方ないか」と理解できますね。

1-1. 論理的な説明は誰でも理解できるが・・・

私達は、道理や筋道・常識に合わないことは理解できないことが多いですが、理由がわかると理解する事が出来ます。

これは、理性の働きによるものです。理性による理解は、論理的・普遍的で、ある程度みんなが共有できる客観的な理解といえます。費用の問題ならば、相見積りや論理的な説明があれば、誰でも理解できます。

しかし、人の心は・・・

理解することが出来るのでしょうか?そもそも、人の心を論理的・合理的に説明できるでしょうか?

1-2. 人の心は理論で説明できない!

人間には、理性の働きもあれば感情の働きもあります。人の心は常に揺れ動いていて、確かなものがあるのではなく、その時々の体内外の相互作用の状態と言えます。

人それぞれには、生まれ育った場所や家族や体験・記憶があり、今暮らしている環境があります。性別、年齢、職業・経歴、年収、家族構成、健康状態など、このような情報から相手のことを分析したり、概要はわかります。しかし、その人がどのように物事を感じ、何を考え、今何を悩んでいるのかは判りません。

人の心は、ほとんどが無意識下の働きですから、論理的に説明することなどできません。自分自身でも「なぜ、あんなことを言ってしまったのか判らない」とか、「説明できないけど、そう感じる」ということがあるのではないでしょうか。

私達は自分自身のことでもすべてをわかっている訳ではなく、全貌は「神のみぞ知る」ことなのでしょう。かといって、理解する努力を放棄するわけには行きません。今、目の前の 相手の心の状態を理解しようと努めること が、最善の「理解」と言えるでしょう。

では、相手の感情や内面の理解に近付くためには、どのようにすると良いのでしょうか?

ジークムント・フロイト([人物] オーストリアの精神医学者/精神分析学者,1856-1939)は、観察から精神分析によって内面を理解しようとする立場でしたから、客観的理解による理解の方法と言えます。

一方、「共感的理解」という考え方を提唱したのが、カール・ロジャース(アメリカ合衆国の臨床心理学者,1902-1987)であり、心理カウンセリングの基本となっています。次章から詳しく説明していきます。

 

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共感的理解は心理カウンセリングの基本

心理カウンセリングの基本の考え方となっている「来談者中心療法」を唱えたカール・ロジャースは、カウンセラーが持つべき資質として、以下の3つを挙げています。

① 自己一致
あるべき自分と、現実の自分が一致していること。
② 無条件の肯定的受容(理解)
相談者(クライエント)を人間として無条件に認め、批判しないこと。
③ 共感的理解
相談者の立場を自分のこととして感じ取り、理解すること。

 

共感的理解は、相手の主観の世界に入り込んで理解しようとするものです。

共感的理解についてロジャースは、「クライエントの私的な世界を、“あたかも自分自身のもののように感じ取り、しかもこの“あたかも~のように”という性質を失わないこと」と言っています。簡単に言うと、相手の立場になって感じ取り、でも相手の立場であることを忘れてはいけないということです。

それでは、共感的理解とは何かについて、次から説明していきます。

 

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共感的理解とは?共感とは違う

実は、共感的理解 の「」というところがポイントです。共感的理解は、「共感」とは違います。この事を、カール・ロジャースは 『しかもこの“あたかも~のように”という性質を失わないこと』 と言う言葉で伝えたのでしょう。

3-1. 共感とは?

まず、「共感」の例を挙げてみましょう。職場の同僚2人の会話です。

 

男A
まったくK社は…納期寸前で、急に修正入れるなんて言語道断だよな。

男B
ほんとだよ、最終チェックで念押ししといたのに、何のためのチェックだ!

男A
しかも納期は変えないだと!あっちが悪いのに、偉そうにナンなんだ。

男B
そうだよ、修正にどれだけ手間暇かかると思ってんだよ。こっちは徹夜だよ、ったく!

 

2人は、取引業者の突然の修正依頼に大迷惑を被り、怒り心頭に発しています。同じ体験をして共通の怒りを持っています。共感するという事は、相手と同じ(ような)体験をして、相手と同じような感情を持ちます

また、共感の場合には “増幅”という作用 と “つながりを強める”という作用 があります。上記の例は、増幅の作用が強い例といえます。

もうひとつ、共感には「自分の気持ちを判ってくれた」という、つながりを強める作用もあります

3-2. 共感的理解とは?

例えば、震災で辛い想いをした被災者同士がその悲しみを共有した時に共感し、辛さを分かちあえるということがあります。これは、共感による作用のうち、つながりを強める作用です。

しかし被災者でない自分は、大切な人や故郷を失った悲しみを、その人と同じようには感じ取れません。安易に他人から「わかります」などと言われると、相手は「本当に辛さがわかるの?」と言いたくなります。これは多くの心理カウンセラーが直面する壁となることでしょう。

同じ体験をすることはできない ――

判ったフリをするのではなく、相手と自分は違うという前提に立って、謙虚に相手のその時の心の状態を受け止めることが大切です。「深い悲しみを抱えるあなたを、私は理解します。」 というのが共感的理解といえます。

同じ悲しみは持てないけれど、悲しむ相手を理解しようと努めることによって相手との信頼関係(つながり)を築くことができるのです。

このように、共感には、”増幅”と”つながりを強める”作用があります。増幅は良い場合と悪い場合があるのですが、上記に挙げた怒りや憎しみ・恐怖などの共感は、増幅されると問題を起こす場合もあります。共感的理解は、相手の感情は相手のものとして否定せず、増幅せずに、つながりを強める理解の仕方といえます。

 

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共感的理解と客観的理解は両方必要

相手の心情や考えを理解する場合は、共感的理解が大事ですが、問題解決には客観的理解もまた必要です。心理カウンセリングでは、相手の問題の全体像を把握する必要があります。つまり、相手が置かれている環境やさまざまな事実からの客観的理解は欠かせません。

例えば、不登校ならば経緯や状況など・・・本人だけでなく、家族や学校からの情報も併せて、客観的に問題を整理することも必要です。相手の主観に寄り添う「共感的理解」と、相手を取り巻く事実からの「客観的理解」と、双方を行きしつつ、戻りながら理解を深めていくことになります。

相手にグッと入り込む共感的理解と、距離を置いて客観的な視点からの理解と、問題を改善するためには両方の視点が必要なのです。

 

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まとめ

私達は、真の意味で人の心を理解することはできません。しかし、理解しようと努めることは必要です。

理解への方法として、心理カウンセリングでは共感的理解という考え方を活用します。相手の気持ちに寄り添いながら、「そのように感じている」相手の心の状態を受け止めることが大切です。

また、心理カウンセリングでは、共感的理解客観的理解の両方が必要です。相手の立場に立って理解しようとする努力をしていると、気持ちが重なり合うような穏やかな感覚がひたひたと広がることがあります。

心の全貌は理解できませんが、そういう状態が今の私達にとって最善の「理解」なのかもしれません。