アッシュの同調実験とは?仕事で使って有利に進めるビジネス心理学

すでに皆さんも感じている通り、会社内での人間関係というのは非常に繊細なものです。

いくらイヤな上司や気に食わない部下がいるからといって、上下関係を好きで選ぶこともできません。もっとも、自己実現や家族を養うなど目的を背負っている訳ですから、行きたくなければ行かないという訳にもいきません。会社の人間関係でトラブルなどはもってのほかです。

だからこそ、上司や同僚、後輩との人間関係は円滑にしておきたいものですよね。

今回ご紹介する 『アッシュの同調実験』 の心理を活用することによって、無用な職場内での争いを防いだり、時には、自分の意見を押し通したりといった事のコントロールがし易くなります。

ぜひ、この心理学的テクニックを押さえて、会社での仕事や立ち位置を有利に進めていきましょう!

この記事で分かること

✔ Noと言えないのは集団心理が影響している

✔ アッシュの同調実験では周囲の多数派意見に従う傾向を証明した

✔ 集団の中での同調は意思決定が操作されているのでなく心理的な影響

✔ アッシュの同調実験を利用して仕事を有利に進める方法

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アッシュの同調実験が証明する集団心理

1-1.有力者にはさからえないという『集団心理の恐ろしさ』

たとえば、会議の場で上司が、あるプロジェクトに対して「これはうまく行きそうだ」と評価したとしましょう。その上司が有力であればあるほど、下された判断には逆らうのが難しくなります。

このとき、現実的に考えて、そのプロジェクトが「本当に上手く行きそう」であれば問題はありません。あなたも上司に同調し、そのプロジェクトを推せばいいのですから。

しかし、問題はどう考えても「上手く行けそうにもない」場合です。

上司以外の全員がこぞって「いや、ダメですよ!部長!その考えは現場の状況を見過ごしたものです!」などと反論してくれればいいですが、現実は厳しいものがあります。

上司の機嫌を損ねたくないと考えた多くの同僚によって追従(ついしょう)が始まり、そうなるとあなた一人が「無理じゃないですかねぇ」と言い出すのは至難の業であることは間違いありません。

※追従=こびへつらうこと

そうこうしている内に、明らかに現場の状況とはかけ離れた計算のもとにプロジェクトが発足し、案の定失敗して、可哀想なことに誰かが責任を取らされることになるのです。

これが集団心理の恐ろしさなのですね。

1-2.「ダメだ」の一言が言えない

この事例でのポイントは、 “ダメだとわかっているのに他の皆が賛意を示しているから自分も反対できない というところです。通常であれば、明らかに誤りだとわかっているなら、そのように言えるはずでしょう。

会議の例にしても、賛成と反対がそれぞれ半数ずつといった割合であれば、かなり反対意見は出しやすくなると思われます。しかし、ほとんどの人が賛成している中で「ダメだ!」と主張するのは、心理的にも相当の抵抗がありますよね。

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アッシュの同調実験とは?

先述までの事例の様に、問題に対する答えが明らかに間違いの場合でも、周囲の人間が同様に間違いの答えを選んだ場合、それに同調して自分自身も間違った答えを選択してしまう心理状態のこと をポーランド出身でアメリカにて活動した心理学者、ソロモン・エリオット・アッシュ(Solomon Eliot Asch)が実験で証明しました。これを アッシュの同調実験 と言います。

アッシュが1955年に発表した同調に関する実験とは、次のようなものでした。

  • テーブルを7名の学生が囲み、1本の線の書かれたカードを示される
  • 学生は順番に、もう1枚のカードに書かれた3本の線の中から、示されたカードの線の長さと同じ長さの線を選んでゆく
  • 実は本当の被験者は6番目に線を選ぶ学生1名だけで、他の6名は誤った長さの線を選ぶ「サクラ」である

この実験において、予め被験者1名だけで線の長さを答えさせたところ、正解率は90%を超えました。ところが、5名のサクラが揃って間違った回答をしてから被験者に答えさせると、その正解率は60%台まで下がったというのです。

これは、集団の中でも誤った回答に同調し、被験者も誤った答えを返してしまったことを示しています。

 

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アッシュの同調実験から見る”同調”と”意思決定”

3-1.同調と意思決定

アッシュの同調実験における同調とは、周囲の多数派に従うことをいいます。

その中でも、自らの意思や信念を曲げて周囲の多数派に迎合することを追従(ついしょう)、権威に対する同調を服従といい、自らの意思や信念に基づいて他者が正しいと認めることを私的受容といいます。

つまり、仕事におけるプロジェクトが失敗するだろうことがわかっていながら賛成多数の中で反対できないケースでは、追従がなされているといえます。

アッシュの同調実験では、『そもそも被験者の意思決定が操作されるか?』 という方向で行われたものですから、特に被験者の意思決定への干渉がなされたわけではありません。つまり、実験者やサクラたちから、「こっちが正しいと思うよ」「これを選びなよ」といった働き掛けは一切なされていないのです。

それなのに同調がなされたということが問題です。

集団の中で、人は誰かから明確に意思決定への干渉がなされなくとも、多数派の意見に従ってしまうという心理的傾向を有している ということなのですね。

3-2.自由意思と自己責任

ただ、このような心理的傾向があるからといって、自らの意思決定が妨げられたのだとは(原則として)見なされません。

集団の中で犯罪行為をしようということが決まったとして、いくら反対しにくい雰囲気があったからといっても、法廷でその言い分が認められることはないでしょう。

仕事における会議の場でも同様に、

  • 「自分は、本当はプロジェクトが失敗すると思っていた」
  • 「上司や同僚が賛成していたから事を荒立てることもないと思っただけだ」

と後から主張したところで、意味はないでしょう。

「そうだね、同調圧力が働いたんだよね」と好意的に解釈されることはまずないといっていいと思われます。

あくまでも自分の意思でプロジェクトに賛成したのだと判断されるのです。

3-3.「総意」の不安定さ

また、ほとんどが追従によって意思決定がなされた場合、その集団での「総意」に確固たるものはあるでしょうか。

内心では多くの者が「これはダメだろうな」と思っていたとしたら、些細なことで結論は引っくり返る可能性があるということです。

同調の問題とは、自分の示した意見や態度が自己責任と見做されるわりに、拠り所であったはずの「総意」がはなはだ不安定だというところにあります。

こうした同調がビジネスシーンにおいて適切なものとはいえないことが、おわかりでしょう。

かといって、周りの多数意見を押し退けてまで自分の独自意見を主張するのも、職場の気風にもよりますが、難しいところが多いと思います。

そこで、同調の性質を逆手に取って、周囲の反発を受けずに自分の意見を主張する方法を考えてみましょう。

 

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仕事でアッシュの同調実験を活用するには?

3-1.自分の立ち位置を把握する|アッシュの同調実験を利用する条件

まずはその職場内や会議内において、

  • 自分の持つ意見が多数派なのか少数派なのか
  • あるいは異なる意見を持つ者の人数が拮抗しているのか

ということを見極めましょう。

多数派であれば同調圧力も気にする必要がなく、自分の意見をそのまま述べればいいということになります。意見が拮抗している場合にも同様で、意見を主張する際に同調圧力を問題とすることはありません。

問題は自分の意見が少数派だという場合です。この場合には、2つの方法が考えられます。

3-2.事前の根回しが大切|アッシュの同調実験を利用する条件

第1に、事前に賛同者を募っておくことです。

会議などの場では、反対する者が他にもいて、そこから援護射撃をしてもらうことで、同調圧力が相当程度まで和らぎます。

社内会議だと困難ですが、オープンな場での会議や講演などでは、いっそのことアッシュの実験と同じようにサクラを紛れ込ませるというのも手です。別にその場が自分の意見と異なる意見の持ち主で埋め尽くされているわけでなく、中立的な立場の者が多い場合にも、サクラは役に立ちます。

数名が意見を述べることで、中立な者にも同調が働くからです。

いずれにしても、根回しをしておくことで単独で多数派に対抗するという構図を崩すことができます。職場内での関係性を良好に保つためには、こうした準備も必要となるのですね。

3-3.意見を述べるタイミングをずらす|アッシュの同調実験を利用する条件

第2に、意見を主張するタイミングを見計らうことです。

会議で決まったことが全てで、それを覆しようがないというのであれば難しいですが、そうでなければ後から文書などで意見を述べるという手もあります。もちろん、決まった話を蒸し返すことでのリスクもありますが、大勢の前で反対をするよりは印象をマイルドにすることができます。

同調というのは、基本的に 『その場』 に対して生じます。つまり、ビジネス会議であれば会議という場が閉じられた後では、同調の作用というのは失われているわけです。

集団心理が問題なのであれば、集団ではなくなったタイミングで意見を述べれば良いのですね。そうすることで、その時その場所では主張しにくかったことが言いやすくなります。

 

アッシュの同調実験に関するまとめ

アッシュの同調実験から分かる通り、同調圧力というのは個人の意思を超えて働くものです。そのため、本来は自分の意見に内心で賛同してくれているはずの他者まで敵に回してしまう、ということが生じます。

重要なのは、『準備をしっかり整えることも含め、意見を述べる局面を見極めること』 です。これさえ適切にできれば、職場内で孤立する事をさけ、自分自身の意見を適切に発言することも可能になります。

同調についての理解を深めることで、職場を居心地の良い場所にしていきましょう。