応用心理学の一つである災害心理学は、教育心理学や臨床心理学などの他の応用心理学の中では比較的新しい分野になります。日本でも地震や津波、台風などの自然災害から火災や飛行機事故までさまざまな災害が毎日のように起こっていますが、災害心理学はそれらの 災害と人間心理の関係 について学びます。
1.災害心理学とは?
災害心理学を簡単に説明すると、災害と人間の心理の関係性をテーマとした実践的な心理学です。とても身近なテーマを扱う災害心理学ですが、ここで扱う領域を箇条書きにすると下記の通りとなります。
- 災害発生時の人間の心理や行動
- 災害体験者の心理変化
- 災害のストレスによる自殺などの二次被害の防止
地震や津波、火災などの災害はいつ発生するか分かりませんし、飛行機事故や鉄道事故なども他人事ではありません。そのような災害に遭遇したとき、人間はどのような心理状態になりどのような行動を起こすのかを究明して、災害が及ぼす心理的な影響なども研究していくのが災害心理学です。また、災害が起きた後の心のケアも災害心理学の領域に含まれています。
2.災害心理学を学ぶと逃げ遅れる理由が分かる!
日本で生活していれば、これまでに何度か大きな揺れを感じたり、台風で怖い思いをした経験がある人も多いのではないでしょうか?
災害が発生したときには人はパニックになると言われており、それが原因で正しい対応ができず、結果的に被害が大きくなったと思っている人が多いかと思いますが、実は違います。
災害心理学を学ぶと、災害発生時にどうして逃げ遅れてしまうのかその理由が分かります。
2-1. あまり知られていない災害発生時の心理状況
大きな地震が起きても、津波の警報があっても、実は多くの人はパニックにはならないという報告があります。そういった状況ではむしろ冷静で、 自分の意志で逃げていないために被害に遭ってしまう人が沢山いる と言われているのです。
地震などの災害に巻き込まれてもパニックになる人は少なく、また危険を察知して素早く行動できる人はとても少ないとも言われています。
災害時になぜ人は冷静でいられるの?
危機的な状況に陥ったとき、人間には 正常性バイアス と言われる行動心理が働きます。異常事態が発生しているのに、「まだ大丈夫」とか「そんなにひどくないはず」などと考えて、 心の安定を測ろうとするメカニズムが自動的に働く のです。
正常性バイアスが被害を拡大する
日常生活で起こる変化などに対して過度のストレスがかからないようにするためにこの正常性バイアスは必要な機能ですが、これが災害時にも作用してしまうと避難が遅れ、被害が拡大することになります。災害心理学ではこの正常性バイアスなどの災害発生時の人の心理状況についても学びます。
3.災害心理学では被災者の心のケアも学びます
災害心理学では被災者の精神的なダメージのケアについても学びます。
大きな災害に見舞われた場合、突然家族や知人と死別するという大きな喪失感や、避難生活などによる精神的なダメージを大きく受ける人がたくさんいます。
また災害が発生してからしばらく経ってもいつまでも恐怖心や不安がぬぐい切れず、現実に体験した出来事よりもさらに恐ろしい場面を思い浮かべるという心的外傷やトラウマと言われる症状に悩まされる人もいます。
災害心理学では、このような災害が原因で起こる精神的なダメージを軽減させるための方法や心的外傷に関する研究も行っています。
防災に関しては、日本は先進国であるものの被災者の心のケアに関してはまだまだ整備されていない状態で、被災者の心的外傷や強いストレスが問題視されています。絶望感や将来への不安から鬱状態に陥る人も多く自殺まで考える人も少なくないのですが、そんな人たちの心のケアを、災害心理学を学んだ心理カウンセラーが行います。
地理的にも自然災害に見舞われることの多い日本では、災害心理学の知識が大いに役立つでしょう。被災地でも心理カウンセラーの役割は大きく、災害心理学の知識は必須となります。